Vol.2「消費者」から「文化的創造者」へのシフト
【学び】

宇宙船地球号
創造学校
レポート

Interview
谷崎テトラ / 大江亞紀香 / 藤原ちえこ
Interviewer 木下芙美


2019年2月3日、「WorldShift2019 宇宙船地球号創造学校」が開催されました。ワールドシフトの時代に向けて、Vision / Being / Sytem の3つのクラスに分かれて、未来のワークショップの見本市のような一日となりました。

「宇宙船地球号創造学校」の3つのクラス分け
・Vision クラス・・この地球号の行き先を描く「ビジョン」
・Being クラス ・・クルーとしての感性や身体知を創る「ビーイング」
・System クラス・・個別分化な状態からホリスティックに仕組みを組み直す「システム」

今回は、ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表の谷崎テトラさんに「宇宙船地球号創造学校」についてお聴きしました。


宇宙船地球号創造学校で話す谷崎テトラさん

ーまず、「宇宙船地球号創造学校」とは、どのようなイベントだったのか教えてください。
「ワールドシフト2019 宇宙船地球号創造学校」というのは、バックミンスター・フラー博士の「宇宙船地球号」というのを一つのコンセプトとして、「ワールドシフトを学ぶ学校があったとしたら、どんな学校だろう?」というのを考え、Visionクラス、 Beingクラス、Sytemクラスの3つのクラスに分けて授業を行うということを試みました。 そして、過去に開催されたイベント(ワールドシフト・フォーラム)では、登壇者の話を講演会やシンポジウム形式で聴くというのが多かったのですが、今回はワークショップ形式で行いました。
「宇宙船地球号」とは、ちょうど今から50年前の1968年のアースライズの画像がありますが、ワールドシフトも、このアースライズから始まっていているのですが、バックミンスター・フラー博士は、この宇宙船の中から見た地球の姿が、地球の水、空気、資源、植物などを循環させている宇宙船だということに気づいて、これをフラー博士は「生きた宇宙船」と例えたところから「宇宙船地球号」という考え方があります。半径6,371 km、大気と水をたたえ、74億の人間と870万種の生物種を乗せて、時速約 10万7280km(マッハ87.58)で太陽の周りを回る宇宙船というわけです。
そして、この地球の映像から15ヶ月後に、世界で最初の環境運動が始まり、平和運動なども広がっていったのですが、この地球というものを認識することで、人々の価値観は大きく変わっていきました。


1968年 月から見た初めての地球

 何世紀の間、おそらく何千年もの間、わたしたちは、「充分な資源を獲得するためには、戦い、競争する必要がある」と思いこんでいた。
 しかし,歴史上のある地点において、わたしたち人類は、「誰もが健康で快適な生活をするのに充分以上のレベル」に到達したのです

この瞬間に人類はバージョンアップして、フラー博士のこの言葉のように、この地球の映像を共有することによってワールドシフトが始まるきっかけとなったと我々は考えています。

-バックミンスター・フラー博士と「宇宙船地球号」について、詳しく教えていただけますか。
バックミンスター・フラー博士という人は、アメリカの思想家で、デザイナーや建築家でもあるのですが、「現代のレオナル・ド・ダビンチ」とも呼ばれている人です。 フラー博士の考え方は様々な領域に及んでいるのですが、

人類が宇宙と調和して生きるすべを発見すること

というのが彼の根幹となっている考え方です。
彼は『宇宙船地球号操縦マニュアル』という本を1963年に出しました。この中では、ものごとを包括的にとらえることが大切だということを言っています。
そして、今起きている地球の様々な課題は、様々な専門家たちの様々な専門領域が分化していって、全体性でとらえる視点というのが欠如していることから起きているというのが、この『宇宙船地球号操縦マニュアル』の中での一番基本的な考え方です。
別の言い方をすると、それぞれの専門領域を極める「スペシャリスト」の能力に対して、全体像でとらえる視点が必要な「ジェネラリスト」の能力と言われています。このジェネラリストのルールとは、単純に全体を包括的に考えれば良いということだけではなく、それぞれの物事の戦略レベル、戦術レベル、様々なレベルにおいて統合的に考えるということで、田阪広志さんは「スーパージェネラリストの能力」というような言い方もしていますが、このジェネラリストの能力が、今必要とされています。
この宇宙船地球号について、経済学者のケネス・ボールディングは、「この宇宙船に多くの欠陥が指摘されるようになった。酸素配給装置に入り込む様々な有毒ガス、エネルギーの限界、食糧不足、飲料水の汚染、ファーストクラスとエコノミーの格差、船室感のいざこざ、店員の問題など、様々な問題が噴出している。」と指摘しました。
しかし、フラー博士はこの言葉を受けて、確かにこのファーストクラスとエコノミークラスの格差があるように見えるけれども、そもそも宇宙船には、ファーストクラスとエコノミークラスの区別はないのだ。なぜなら、宇宙船というのは、すべてがクルーであり、乗客と乗務員がいるという考え方はないからだと。乗客がCAに苦情や文句を言うようなことでもなくて、すべての人がそれぞれの役割、ミッションを遂行するクルーとしての振る舞いが大切だというふうに返して、

 宇宙船地球号には乗客はいない。全ての人が乗員(クルー)なのだ

とフラー博士は言いました。

-「全ての人がクルーなのだ」という考え方が大切なんですね。『宇宙船地球号操縦マニュアル』には、具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか。
『宇宙船地球号操縦マニュアル』の中には、全体を「システム」として捉える「一般システム理論 (General systems theory)」という考え方を提唱しています。部分的ではなく、全体として、またシステム全体として考えるということです。
例えば、一人の人、僕自身を表そうとした時に、部分に分けていって、タンパク質は何キログラム、骨は何本あって、血液は何リットルあるというように部分に分けていったとしても、それは僕自身を表すことにはなりません。物事というのは、時には部分に分けて捉えることも大切なのですが、その部分をいくら集めても全体を語ることはできません。そこで、システム全体として捉えようとする考え方が必要なわけです。
また、フラー博士は、そのような統合的なものの見方をする視点として「シナジー(Synergy)」という言葉を大切にしています。
「シナジー」という言葉は、最近のビジネス世界でも「シナジーを起こす」などとよく言われて、「相乗効果」というような意味で、1+1が2になるとか、そういう足し算のことを言われていますが、フラー博士のシナジーとはそういうことではなくて、Aという要素とBという要素がくっついた時に、AでもBでもないCという要素にバージョンアップすることを言っています。
酸素と水素が結びつくとH2O(水)になることを、よくシナジーの例えとして使いますが、水素と酸素というそれぞれの個性というものが結びついた瞬間に、どちらの要素とも違う水という全くレベルの違う質のものが生まれます。単純な1+1が2になる話ではなくて、質的な転換が起きて全体が構成されているということをフラー博士は言っています。
この「一般システム理論」という考え方は、今の地球環境問題や経済や社会の問題の全体像、文明の全体像を捉えていくためにとても大切な考え方なのですが、このように包括的なものの見方をワールドシフトの創始者ラズロ博士は、「システム哲学」という言い方をしています。 世界全体、宇宙全体というものを全体としてダイナミックに捉えていくという視点でそれを一つの哲学という視点として捉えています。
例えば、「システム哲学」でこの宇宙というものを捉えるとき、宇宙そのものを一つの巨大な生命体として捉えてみるという視点で捉えます。それぞれの星々とか、惑星の運行とかを調べていっても、なかなかそこを全体として生命があると見出すのは難しいと思いますが、ラズロ博士は、それを生命として捉えてみるという視点を考えていったわけです。
そして、このようなシステム全体として捉えていくということが、今回の創造学校ではとても重要なテーマとなっていて、システムクラスでは、実際にそのことを感じていくということを行いました。

 全体的に思考して、局所的に行動せよ 
 最小限を行使しつつ、最大限を達成せよ

フラー博士は、「全体として捉える」ということについて、このように述べているのですが、この全体性の視点のことを「ホーリスティック(Holistic)」と言います。
「ホーリスティック」という言葉は、ギリシャ語の「ホロス(holes)」が語源になっています。
この「ホロス」という言葉から派生した言葉として、「全体」を表す “whole”、「ヒーリング・癒す」という意味を表す “heal”、「健康」という意味の “health”、「聖なる」という意味の “holy”というような言葉があるのですが、これを僕なりの言い方で表すと、

 地球全体(Whole Earth)で思考し、
 世界を癒し(heal the world)、 
 真に健康で(holistic health)、 
 聖なる生き方(Be holy)を生きる
 

ということを「ホリスティックな生き方」と言っています。
ラズロ博士は、「ロゴス」の文明から「ホロス」の文明へシフトすると言いました。
このホロスという考え方、もしくは、ホリスティックという考え方こそが、21世紀の考え方でもっと重要な考え方であると僕は考えています。
最後に、フラー博士はデザイナーとしても有名で、「デザインサイエンス革命」ということを提唱して、地球規模な環境問題が認識されてくる時代に、大量生産や大量廃棄の社会ではなくて、必要最低限の持続可能なエネルギーに基づく暮らし、地球一個ぶんの暮らしをデザインしました。
それは何よりもこの自然に学ぶということが重要な考え方で、この自然界の中には、直角とか正方形というものはほとんど存在しなくて、丸だったり、円だったり、球だったり、もしくは、六角形とか三角形が結びつくような分子構造などがあって、そういうものに基づいたデザインを研究しました。

 人類が宇宙との調和の手段を発見できれば、政治は不用だ

自然を模倣するのではなく、自然に存在する複数の原理感の相互作用を調整して、これまでにない新しい機能を引き出すことが大切だという、自然から学ぶデザインをフラー博士は考えたのです。




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