Vol.2「消費者」から「文化的創造者」へのシフト
【学び】

宇宙船地球号
創造学校
レポート

Interview
谷崎テトラ / 大江亞紀香 / 藤原ちえこ
Interviewer 木下芙美


—「宇宙船地球号創造学校」の3つのクラスでは、どんなワークショップが行われたのでしょうか。まず最初、Vision クラスを担当した大江亞紀香さんからのレポートです。
ビジョンクラスでは、主観、客観の両側面から私たちの「搭乗している」宇宙船地球号の未来を描き分かち合いました。
客観的側面では、カードゲームを通して国連加盟国が全会一致で可決した持続可能な開発目標SDGsの概要を知り、主観的側面では、参加者それぞれが望む未来を思い描き、対話し分かち合うという形です。
 2030SDGsゲームの進行は、一般社団法人イマココラボ、プロフェッショナル・ファシリテーターの能戸俊幸さんを中心に、主観的未来ビジョンを描く進行は、日本におけるワークショップ、ファシリテーションのパイオニアである東京工業大学教授の中野民夫さんに、全体の進行を大江亞紀香(ワールドシフト・ネットワークジャパン・ワークショップ・ディレクター)が行いました。


Vision クラス 大江亞紀香さん

 前半のゲームは、バスケットボールの指導を通じ高校生の育成にも日ごろ携わっておられる能戸さんの、軽快かつリズム感のあるゲームの説明が分かりやすく、会場は好奇心と楽しさに満ちてゲームを楽しみました。その後の振り返りに至るまで、場がいきいきと活性化していました。SDGsが策定されるに至った地球環境と人類の直面する課題について学び、客観的な世界の現状とSDGsの示すゴールの概要を押さえました。
 続く後半は、主観的未来を描く中野民夫さんのファシリテーションです。
 冒頭、民夫さんの作詞作曲による歌から始まりました。民夫さん自らフォークギターを演奏し、「知っている人は一緒に歌いましょう」と言う言葉とともに、歌詞がスクリーンに投影されます。「内側から美しく強く生きるには 比べない、頑張らない、ゆっくり丁寧に」(「美しく生きるヒント」歌詞より)
 


 穏やかな曲調、フォークギターの音色と民夫さんのリラックスした声に、SDGsゲームの興奮冷めやらぬ会場は、次第にゆったりとした空気に変化して行きました。
 歌の後も穏やかな口ぶりでささやくようにファシリテーションをされる民夫さんから、次に、日本が生んだ偉大な数学者と言われる、岡潔(おかきよし)氏の言葉を引用「懐かしい未来」についての定義と投げかけがなされました。
「人は本来、ただそこにいるだけで懐かしいのだと岡は言う。『懐かしい』というのは、必ずしも過去や記憶のことではない。周囲と心を通わせあって、自分が確かに世界に属していると実感するとき、人は『懐かしい』と感じるのである。だから、自他が分離する前の赤ん坊にとっては、外界のすべてが懐かしい。その懐かしいということが嬉しい。
 生きているという経験の通奏低音は「懐かしさと喜び」なのだ。これが、岡の根本的な信念である。」
 民夫さんは森田真生さんの文章を引用され、私たちが本来望んでいる未来とは、懐かしい感覚のあるものなのではないか?との仮説のもとに、進んでいきます。
全員で立ち上がり、身息心(しんそくしん)─身体、呼吸、心に意識を向ける瞑想を民夫さんの誘導で体験。呼吸がゆったり深くなったところで、4つの問いが投げかけられました。

1. 自分の名前は(両親や祖父母などから)どんな思いや願いを込めてつけられたものだと聞いていますか?
2. 子供の頃ほっとした場所は?
3. 最近ほっとしたのはいつのことで、それはどんな体験でしたか?
4. あなたはどんな未来を生きたいと思っていますか?

民夫さんは終始リラックスされ、ささやくような穏やかな声で進行されました。そのことにより参加された方々も、外に意識を向けるのではなく、自然と静かに穏やかに心の内側に意識が向き、内省が進んでいきました。

 4つの問いについて、ペアで対話した後、「えんたくん」を囲んで4人1組で望む未来について対話に移ります。
 「えんたくん」とは、中野民夫さんと有限会社三ケ日紙工との協働で開発された、対話を促進するツールです。段ポール素材で作られた直径約1メートルの円形の板を、4人が円になって椅子に座った膝の上に置き、その上に同じサイズ、形の模造紙を載せて、描きながら対話します。聞いている人がペンで話している人の言葉やそれにまつわる絵を描いていきます。
 


 その後、対話するメンバーを変えて、別の4人組で再び望む未来について対話を行いました。呼吸を深め、自らや身体を慈しむゆったりとリラックスしたモードに入ってから描く望む未来は、結果としてどのチームにも共通して自然があり、心のが満ち足りた、ゆったりした時間の流れを想定したものであったことが印象に残りました。
 筆者はSDGsゲームの参加者としての体験や、ファシリテーターとして場を進行する体験は数知れず行っていますが、こうした振り返りの流れは初の展開でした。
 通常SDGsはビジネスや政治の文脈にも浸透し、それらの場面でSDGsを聞き、事業化を考える方も多いかもしれません。また、人類社会が直面している様々な課題を知る時、少なからぬショックを受けることも多いかと思います。
 しかし恐れを回避するために行動をプランすることや、怒りや焦りからのアクションが平和な未来を生まないことは、これまでの人類の歴史が物語ってくれていることでもあります。
 長らくソーシャルアクションに熱を持ち、行動してこられた中野民夫さんは、深い洞察力と哲学的背景のもとにファシリテーションをしてくださいました。その進行は誰にでも参加しやすい平易なもので、経験と深さと親しみやすさを兼ね備えた、世界、社会、自分への慈しみの心から未来を描く時間は、一人ひとりの参加者にとって心温まる時間であり、危機からや恐れからではない、心から望む未来が描かれるひとときでした。
 ご自身による作詞作曲の歌を3曲挿入した進行は、ファシリテーション界をリードされる民夫さんにしかできない展開で、思考と感情、心と身体、理性と感性それぞれが満たされる豊かで味わい深い時間となりました。
 最後に大江の進行によりワールドシフト宣言シートを描き、分かち合い、ビジョンクラスは終了しました。
 能戸さん、民夫さんのコラボレーションのバランスが絶妙な、先進的で懐かしい、動きと静けさ両面のある、動くために立ち止まる時間でした。





Visionクラスのグラフィックレコーディング



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