Vol.1 「だれか」から「わたし」へのシフト

【旅】

Column

木下 芙美

わたしの、

サスティナブルな旅。

旅行好きの皆様、旅行のプランにはどのような工夫やこだわりを持って計画をしますか?今日、異常気象や気候変動による災害や環境問題、あるいはテロ・紛争などの平和問題などによって、予定の場所に行けなくなったり、滞在中にも影響が出てしまうことも珍しくありません。

私はそれらの問題に対して、身近なことや趣味を通してアクションしたいと思っていました。そんな時に、観光EXPOの出展ブースで、2017年「持続可能な観光国際年」のことを知りました。自分の好きな旅行にサステナブルな要素を取り入れることで、それが地球を持続可能にするアクションになるのです。

それでは、私が実際にヨーロッパ旅行で実践した「持続可能な観光」を紹介します。

 

持続可能な観光の役割と

2017年「持続可能な観光国際年」とは?

 

国連世界観光機関(UNWTO)は、「持続可能な観光」の役割を下記の5つの柱で示しています。

 

 ・包括的及び持続可能な経済成長

 ・社会的包摂、雇用創出及び貧困の削減

 ・資源の有効活用、環境保全、気候変動

 ・文化の価値・多様性・遺産の保護

 ・相互理解、平和、安全

 

国連は、2017年を「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」と定め、観光において持続可能性を推進しています。

UNWTOは、国際理解、平和・繁栄への寄与、性・言語・宗教の差別撲滅、人権と基本的自由の尊重への寄与のために、UNWTO憲章に基づいた観光の振興発展を目的として、1975年に設立されました。2003年には国連の専門機関となり、貧困軽減や開発推進などの目標を担う重要な機関として成長しました。

2017年は「持続可能な観光国際年」として、UNWTO主導で本部のマドリッド(スペイン)ほか世界各地でフォーラムやイベントが開催されています。

 

持続可能な観光の意義とは?

 

UNWTOによると、世界の観光客数は、2016年に年間12億人となり、年々増加している傾向にあると発表しています。また、GDP全体の10%を観光産業が占め、10人に1人が観光産業に従事しているといっています。

これだけ多くの人が観光産業に従事し、また観光客も年々増えているのであれば、観光従業者も、観光する私たちも、観光にサステナブルなものを選択すれば、地球環境や平和問題に大きく影響や変化を与えることができるのではないでしょうか。

 

持続可能な観光の作り方

 

今日すでに多くの国・地域、あるいは団体が、観光にサステナブルなアイデアを提案しています。私が今回訪れたヨーロッパでは積極的に観光スポット、宿泊先、レストラン、観光の交通手段など各分野で持続可能なプランを提供しています。

以下は、実際に私が見たドイツ・オランダ・ベルギーでの持続可能な観光の事例です。

 

(1)ベルギー観光局がPRする「グリーンブリュッセル」

ベルギーのブリュッセルは、欧州でも最も緑が多い都市で(ブリュッセルの1人当たりの公園面積は、東京23区の1人当たりの公園面積の約10倍の広さ)

、『グリーンブリュッセル』と題して、サステナブルなプランを紹介しています。

ベルギー観光局のウェブサイト(http://www.belgium-travel.jp)には『グリーンブリュッセル』のページを設置して、「緑の公園や散歩道」や、環境にやさしくCO2を発生しない「自転車レンタル、自転車ガイドツアー」を提案しています。その他にも「有機野菜を使ったレストラン」、「エコショッピング」、「エコに配慮したホテル」が、各カテゴリごとにリストアップされています。

私が宿泊したブリュッセルのユースホステルには、ロビーフロアに『グリーンブリュッセル』の詳しい内容の冊子が置いてあり、朝食にはフェアトレードの食材がたくさん使われていました。

『グリーンブリュッセル』で紹介された観光を実践して、街から公園まで歩く道のりは、建物、アート、お店などが建ち並んでいるのでとても楽しく、広い公園では豊富な自然に心癒されます。次の目的地に向かう際も別の公園を通って、噴水をスケッチする人、芝生の上で寝転んでいる人、犬を散歩させている人やランニングする人たちとすれ違うたびに、現地に住む人の日常を垣間見れて、それもまた興味深いです。すると次第に、ブリュッセルの街に親しみを感じるようになり、その後に食べる名物料理やビールの味は、格別なものでした。

 

(2)持続可能を極めた「ビオホテル」

オーストリアに本部がある「ビオホテル協会(Die BIO HOTELS)」は、健康や環境に配慮した厳しい基準を規約として、宿泊施設に「ビオホテル」の認証を行っています。現在その認証を受けたホテルは、オーストリア、ドイツを中心にヨーロッパ全体で約100軒に及びます。

ビオホテルが提供するサービスは、100%オーガニックの食事や飲み物、オーガニックのアメニティは一般的で、その他にも、オーガニックの素材を使用したエステや、健康や癒しを意識したリゾート設備、ヨガプランやスポーツ・ハイキングなどのアウトドアプランなど、ホテルの立地場所や特徴を生かした多種多様なサービスが提供されます。

また、ビオホテルの厳しい基準には、電子レンジの使用禁止や、環境や健康を害さない建材の使用、最近では、使用しているエネルギーについても評価対象となり、年々厳しくなっているようです。

また、私がビオホテルに宿泊した際に見たものとして、部屋に設置してあるドライヤーとテレビのコンセントが抜いてありました。また、部屋に備え付けの飲食はミネラルウォーターのみで、「コーヒーやお茶はホテルの受付にお申し出ください」とノートに記載されていました。これはゴミの削減につながると思いました。

一番楽しみの100%オーガニックの朝食は、食べ物の素材一つひとつにパワーがみなぎっており、とても感動しました。ふだんよりゆっくりと食べ物の味わおうとする気持ちになり、心と体の両方が喜んでいるように感じました。

ビオホテルでの宿泊は、自分の健康を振り返られると同時に、社会や環境問題について改めて考えさせられる場所です。

 

(3)ユースホステルで体験する相互理解

ユースホステルは「ユース」という言葉がついていますが、年齢に関係なく利用することができます。国際ユースホステル連盟が、加盟国すべてのユースホステルの情報を検索できるウェブサイトを設置しており、簡単に世界中のユースホステルを検索して予約することができます。部屋の種類も多く、一人旅に最適なドミトリーや個室から、家族や大きな団体向けの部屋もあり、幅広い目的で利用できます。

 

持続可能な観光の役割の5つの柱の中に、「文化の価値・多様性・遺産の保護」と「相互理解、平和、安全」というものがあります。それらに対して、ユースホステルは、国際交流や異文化理解、相互理解の場として最適です。

ユースホステルには、世界各地から来た多様な国、民族、文化、宗教の人たちが宿泊しています。そのため、そういう人たちが交流しやすいように、ラウンジやバー、食堂、キッチン、図書室、庭などの共用設備が充実しています。また、イベントが行われることもあり、庭でのバーベキューや、無料の街歩きツアーなどもあります。私が街歩きツアーに参加した際も、参加者同士の会話が弾み、そのあと一緒にレストランで食事をする機会に恵まれました。

私は今回のヨーロッパ旅行で、3箇所のユースホステルを利用し、2箇所が朝食付きでした。その2箇所のユースホステルの朝食は、どちらもオーガニックやフェアトレードの食材がたくさん使用されており、特にフェアトレードの物が目立っていました。また、1ユーロで買えるコーヒーの自販機も、オックスファム(OXFAM)のフェアトレードのものを使用した自販機が導入されており、その横のスナックやチョコレートが買える自販機にも、オーガニックやフェアトレードの商品が置いてありました。

ユースホステルの利用者は、若者中心をイメージする人が多いかもしれませんが、実際は、外国人の宿泊者は特に年齢は一切関係のない状態で、私がベルギーで泊まった時も、フランスから来た40〜50代の婦人グループがいたり、ドイツ人の年配夫婦がいたりする一方で、中東系の子供連れの家族がいたり、子供のスポーツクラブの団体がいたりもして、人種から年齢まで本当に幅広いです。このような多様な人たちが一つの食堂に集まって、フェアトレードの朝食をとっている風景は、かなり印象的に心に残っています。

 

サステナブルな旅行をしてみよう!

 

今回は『「誰か」から「わたし」』というテーマで、持続可能な地球のために、自分の好きなことを通してできるアクションとして、「持続可能な観光」を実践しました。ヨーロッパにはすでに多くのサステナブルなプランの選択があったので、観光者としては、想像以上に楽しみながら実践できました。

しかしその一方で、まだ多くのサービスは持続可能でないものが多いので、それを今後の課題として、まずはもっと多くの人に「持続可能な観光」のことを知ってもらい、サステナブルな旅を体験してもらいたいです。私自身は、さらにサステナブルな旅を追求して、少しでも地球にやさしいアクションを続けられたらと思います。

 

(文:木下 芙美 / WorldShift MAGAZINE編集部 )

 

木下 芙美プロフィール

2006年、谷崎テトラオフィス入社、現所属。2010年、著書『WorldShift』の編集や第1回ワールドシフトフォーラム等、ワールドシフト立ち上げ当初から活動に携わっている。

 

ヨーロッパ旅行にて

グリーンブリュッセルのポスター

ビオホテルにて

ホテルは交流の場

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