Vol.1 「だれか」から「わたし」へのシフト
【働き方】

管理しない経営による
全員参加型の組織を追求する
ホラクラシー経営。

Interview
ダイヤモンドメディア 武井浩三
written by 並河進


会社を離れて自由に生きるか。 会社の基準の中で生きるか。 その二者択一ではなく、もうひとつの働き方の選択肢。 会社自体を、階層構造の呪縛から解こうとしている試みがあります。 その名も、「ホラクラシー経営」。 日本ではまだ耳慣れない、このホラクラシー経営の先駆者である、ダイヤモンドメディアの武井浩三さんに聞きました。

ダイヤモンドメディア 武井浩三

機械的な組織から、生物的な組織へ


ーいつ頃から、そうした試みをはじめたのですか?
2007年に、ダイヤモンドメディアをはじめて、すぐに、ですね。 最初は、自分たちの経営の考え方を何て呼べばよいのかわからなかったんです。 2014年ぐらいに、ホラクラシー経営という言葉がアメリカから入ってきて、この考え方は自分たちがやろうとしていることに近い、と感じました。 ホラクラシー経営という言葉は、ブライアン・ロバートソンという、アメリカの組織コンサルタントがつくった造語です。 「ホラクラシー」の語源は、ホリスティックと同じ。 その考え方は、簡単に言うと、 組織を、機械ではなく、生き物として考えて、設計する、ということです。 機械的組織の場合、ひとりひとりは部品であり、替えがきく存在、 そして指示を出すのは一箇所。それに対して、部分と全体を分けずに、生物的な組織を目指す、というのが、ホラクラシー経営なんです。

ーアメリカのホラクラシー経営と、ダイヤモンドメディアのホラクラシー経営には違いがあるんですか?
ブライアンの思想は、会社の中に上下がなく、社員ひとりひとりを肩書きで縛る必要はない、という問題提起。 その問題提起は正しいと思います。 その上で、私たちは、9年間やってきて、組織が、生物的に機能するための条件、 制度設計、システムが見えてきました。 組織が、あたかも生物のように動くための、いくつかの必要条件が分かってきたのです。 それは、3つあります。
まず1つ目が「情報の透明化」です。
ホラクラシー経営は、情報がオープンじゃないと機能しません。アメリカのホラクラシー経営では触れられていないことです。 ダイヤモンドメディアでは、経営情報を隅から隅まで、給料から使った経費の内訳から、すべてを社員に公開しています。情報の格差が少しでもあるとヒエラルキーが生まれるんです。
2つ目が、「権力の喪失」です。
人事権、決裁権、議決権といった固定化された権力を、すべてなくすこと。それを誰かが持っている状態だと平等なんてありえないです。
「言いたいこと言えよ」なんて言われても、権力を握られた状態では、フェアに言えるわけないですよね。 アメリカのホラクラシー経営は、誰かが権力を持ったままで実現しようとしているところが、僕らの考え方とは違います。
3つ目が、「給与相場システムの確立」です。
お金がからまなければフラットに自由にやっている組織は、会社以外でもありますよね。
でも、会社は、給与システムを具体的に構築しないと機能しません。 ホラクラシー経営の場合、権力がないので、お金をどう分配するか、決める人がいないんです。そこで取り入れたのが、株式市場のように「相場が決める」という考え方です。

・その人のマーケットバリュー、つまり客観的な情報で決める。
・P/LではなくB/Sに貢献する活動も価値として認める。
・自己評価や将来に対する期待値など、相場を乱す軸をいれない。

半年に一回、「お金の使い方会議」を実行し、この「相場」の考え方で、全社員で給与も決めています。 経費は、個人の裁量に任せています。その代わり、使ったものすべてがオープンになっている。 そうすると、みんなお金を使うときに、勝手に考え始めるんですよ。

ー上下がない組織の場合、仕事は、どうやって進んでいくんですか?
ヒエラルキーの組織のように、肩書きもありませんし、仕事が固定化して決まっているわけではないので、 新しい人が入社してきて、「何すればいいですか?」と聞かれても困るんです。 「お好きにどうぞ」と。 ただし、会社の情報はすべて公開されているので、だんだん情報が入ってくると、会社にとって必要なところもわかってくる。その中で、その個人がマッチするところを自然にやっていくようになる、という感じです。

ーそういう仕組みがうまく回るようになるまで、苦労はなかったですか?
実は、私は、一社目につくった会社を、一年で倒産させてしまっているんです。
その一社目のときは、「世の中に何か、でかいことしたい」という、ある種のエゴで始めていたんですよね。 で、失敗して、思ったのは、「なんのために仕事をしているんだろう」ということ。 お客様だけではなく、家族とかステークホルダーとか地域とか、そのすべてに対して、貢献する存在じゃないと意味がない。 株主が潤っているけれど、社員は疲弊しているとか。 お客様は喜んでいるけれど、自然は破壊しているとか、 どこかがダメなら、会社がいる意味ないよな、と思ったんです。
そこで、こういう会社をつくりたい、と考えて、組織づくりを研究して、試して。普通の人事制度も知らないので、まっさらな状況から、ゼロから考えて、迷いながら、自分たちでつくりあげてきました。手探りで。関わる人、関わるものすべてに価値を提供していく、会社をつくりたいなと思ったのです。

社員ひとりひとりの「邪魔をしない」という発想


ー社員の自己実現を大切にしている、ということでしょうか?
いえ、それも、ちょっと違うと思っています。自己実現は結果として、その人が「成すか成さないか」ですよね。 自己実現の定義もひとりひとり違いますし、会社が、それを手伝う、というのはおこがましいんじゃないかと。
その代わり、我々は、「邪魔をしない」というスタンスは一貫しています。うちの会社は、会社の目標や経営計画はないですし、一切教育もしないし、キャリアパスもありません。 社員の「モチベーション」というものも扱わない、と決めています。

ーそれはなぜでしょう?
モチベーションは、餌になってしまうんです。ヒエラルキーって、そういう仕組みなんですよ。 お金で釣る、役職で釣る、待遇で釣る、自己実現さえも、インセンティブになってしまう。 だから、ダイヤモンドメディアは、業績連動の給与もありませんし、給料もインセンティブにならないようにしています。 また、理念をつくる、クレドをつくる、というようなこともしません。 これも、ぜんぶ経営者のコントロールの話ですよね。 その理念やビジョンにのっとった人は評価される。そこからずれた人が評価されない。 それって社員のコントロールじゃないですか。 われわれは、モチベーションをあげる仕組みはつくりません。 でも、モチベーションをさげるものはすべて徹底的に取り除いています。

ー「邪魔しない」というのがキーワードですね。
そうですね。会社を農園に例えるなら、余計なことをしなければ、育っていく、ということです。 コントロールしようと、無理して耕して、化学肥料といれて・・・とやっていくと、どんどん土地が枯れていく。 そういう悪循環に陥ってしまう。 植物と同じで、ほうっておけば、草木が育ち、生態系が生まれて、土が肥沃になっていく。
私にとってホラクラシー経営は、そんなイメージです。

ーこのホラクラシー経営は、どんな会社でも取り入れられるものなのでしょうか?
ダイヤモンドメディアは、始めたときは4人で、いま、30名弱です。 これくらいの規模だから、うまくいっている部分もあるかもしれません。
いま、不思議なことに、いろいろな大企業にも呼ばれて、相談を受けています。 これが、100人、1000人という規模になったときに、どういうかたちになっていくのかは、わかりません。 また、新しい条件が必要になってくるのかもしれません。

(聞き手:並河 進 / WorldShift MAGAZINE編集部 )
(写 真:岡部智子 )
ダイヤモンドメディア株式会社
https://www.diamondmedia.co.jp/


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