Vol.2「消費者」から「文化的創造者」へのシフト
【キーワード】

What is the Cultural Creatives ?
「カルチュラル・クリエイティヴズ」とは?

written by 木下芙美


『WorldShiftマガジン vol. 2』のテーマ、「文化的創造性を持つ人々」という意味を表す「カルチュラル・クリエイティヴズ(Caltural Creatives)」とは、そもそもいったい何のことでしょうか?
『WorldShift』ハンドブックの中でも、「カルチュラル・クリエイティヴズ」のことが紹介されています。それを要約すると、「過度な物質主義やエネルギーを無駄遣いする生活から、自発的で質素な生活、より自然と調和した生活を求めるライフスタイルにシフトし、ホリスティックな考えをもとに行動しながら個人的な成長を求める生き方をする人々。そして、彼らが社会生活の中で文化的変化を起こし、それが着々とパワーをもって進歩している」というような内容でした。
日本では、2000年代半ばに「ロハス(「Lifestyles Of Health And Sustainability」の頭文字をとって「LOHAS」)」という言葉が広まり、環境や健康について熱心に取り組む人の考え方やライフスタイルに影響を与えました。この「ロハス」という言葉が最初に登場したのが、アメリカの社会学者ポール・H・レイ博士と、その妻であり社会心理学者のシェリー・R・アンダーソン博士の著書『The Cultural Creatives: How 50 Million People Are Changing the World.』というレポートでした。
これは、アメリカ人の価値観とライフスタイルについて、1986年から13年間にわたって何百というフォーカスグループと10万人以上の人を対象に行われたアンケートの調査結果のレポートで、2000年にアメリカにて出版されました。

「カルチュラル・クリエイティヴズ」度チェック


「カルチュラル・クリエイティヴズ(以下、CC)」のことを詳しく知る前に、自分がどれくらいCCであるのか、以下の18項目で当てはまるものをチェックしてみてください。10項目以上に同意するなら、あなたはおそらくCCであると言えるでしょう。

  • □1. 自然を愛し、自然破壊について深く関心を持っている
  • □2. 包括的な世界の問題(地球温暖化、熱帯雨林の破壊、人口増加、生態的持続可能性の欠如、貧困問題など)に強く関心があり、経済成長を制限するなど、より多くの行動を見たい
  • □3. お金によって自然環境が改善され、地球温暖化が止まるなら、より多く税金を払うか、消費財に対して多くの代償を払いたい
  • □4. 人間関係の発展や維持することをより重視している
  • □5. 人助けや、人のユニークな才能を引き出すことをより重視している
  • □6. 一つ以上のもっともな理由でボランティアをしている
  • □7. 心理とスピリチュアル両方の発達に強く関心がある
  • □8. 人生において、霊性や宗教を重視するが、政治における宗教的権利の役割についても気にかけている
  • □9. 職場での女性に対する平等と、ビジネスや政治におけるより多くの女性リーダーを求めている
  • □10. 世界の子供たちや女性に対する暴力や虐待を懸念している
  • □11. 子どもの創造性と福祉、近隣や地域社会の再構築、生態的持続可能な未来の創造に重点を置く政治と政府支出を望む
  • □12. 政治において左も右も両方を好まず、その中間でもない新しい道を探したい
  • □13. 将来について楽観的な傾向があり、メディアの世界のシニカルで悲観的な考えに疑いをもっている
  • □14. 地域での新しい優れた暮らしを創造することに関わりたい
  • □15. リストラや、環境問題を引き起こしたり、貧困国を食い物にしたりして、多くの利益を上げている名高い大企業を懸念いている
  • □16. 自分のお金や支出をコントロールして、過剰支出を心配していない
  • □17. 富や贅沢品を手に入れ、消費することに成功し、また、そうさせるための現代文化が重視しているあらゆることを好まない
  • □18. エキゾチックな外国の人々や場所が好きで、他の生活様式を経験することや学ぶことが好きである

  • 「カルチュラル・クリエイティヴズ」とその他のグループとの違い


    CC度のチェックは、いかがでしたか?
    レイ博士は、この価値観とライフスタイルの調査によって、CCとその他2つのサブカルチャーのグループに分けました。
    そこで、この3つのグループのそれぞれの傾向について見てみましょう。CC度のチェックが少なかった人は、もしかするとCCではなく、他のグループの傾向が強いかもしれません。

    • 1)昔からの伝統や習慣を守る「トラディショナルズ(Traditionals)」
      ・比較的権威主義で、家族構造を重んじ、フェミニズムには賛同しない。
      ・異文化やグローバルな世界に対して嫌悪感を持ち、移民を歓迎していない。
      ・家族や教会やコミュニティに属し、社会保守主義に関係する。
      ・政治的には中央から極右に及ぶ。国の軍備は不可欠と考える。
      ・田舎や小さな町の暮らしの方が、都会暮らしより有徳だと考えている。
      ・未来に対して過去のノスタルジックなイメージを持っている。
      ・主に中産階級と経済的地位の低い層に多く、年齢は50代半ばから上が多い。調査した当時は、全体の29%を占める。
    • 2)資本主義経済や消費文化を支える「モダンズ(Moderns)」
      ・物質主義で、最新の流行や技術革新の先端にいる。
      ・社会的地位や成功を求め「よく見られたい」と考える。(スタイリッシュな服装を好む)
      ・金銭的欲求が強く、高所得者となっても、自分の財政状況を気にする。
      ・科学や技術を信じ、内面やスピリチュアルなことを風変わりに思う。
      ・マスメディアや娯楽に興じ、世俗的であるが、慣習的に宗教的でもある。
      ・仕事において支配したいと考え、効率やスピードを大切にする。
      ・政治的には、極端な保守主義から極度の自由主義まで幅広く存在する。
      ・年齢層の中央値は39歳で、社会階級は他の2つのタイプよりも幅広い。約半数の47%を占る。
    • 3)逸脱した新しい文化を創造する「カルチュラルクリエイティブズ(以下、CC)」
      ・CCの中で、グリーンCCというタイプは、スピリチュアルや心理的な関心は少ないが、利益より環境が優先で、社会的責任を果たそうとする。
      ・理想の実現に向けて努力し、自己実現を目指す。
      ・コアなCCは、心理的およびスピリチュアルな傾向が強い。
      ・利他主義、理想主義で、人間関係や異文化などに関心が強い。
      ・芸術的・文化的な革新と発展を重要と考えている。
      ・政治的には、左も右も思想が合わず、新しい道を探している。
      ・男女平等と、女性の重要性を社会に求める。
      ・平均年齢は42歳、男女比は4:6で女性がやや多い。調査当時は24%だったが、現在は数が増えている。

    • これら3つのサブカルチャーの違いとは、歴史や宗教、言語などの違いではなく「価値観」の違いです。見ている現実世界やライフスタイルも異なります。
      また、それぞれの社会の根本的なプライオリティ(優先順位)や、総体的な社会への見方の違いでもあり、「よい生活とは何か?」「本当に重要な事は何か?」「私たちは何のために生きているのか?」「現在や未来、子どもや地球の発展のためにどうすべきか?」というような問いに対する考え方やアイデアの発想にも関係します。
      そして、これら3つのそれぞれの文化が、社会や環境へ与えている影響について知ることは、これから世界がシフトするためにとても重要なことです。

      「消費者」→「カルチュラル・クリエイティヴズ」


      過去、または公共の場において、文化の主流は、モダンズとトラディショナルズの2つのグループでした。そして、この2つのグループは、長い間互いを認め合えず、家族不和のように争いながら共存していました。
      そして、やがて資本主義、または物質主義の大量生産・大量消費の文化が成長しました。そして、最先端の技術やファッション、流行を追い求め、スタイリッシュなライフスタイルがよいものとされてきました。
      しかし、CCが2つのグループによる文化闘争の傷を癒し、3大サブカルチャーの1つに成長していきました。そして、現在の支配的な社会から逸脱する新しいリーダーたちが登場して、新しい文化や価値観を創造し始めました。
      今回のワールドシフト・マガジンのテーマ、“「消費者」から「カルチュラル・クリエイティヴズ」へのシフト”とは、今まで価値観から、まったく異なる新しい価値観へシフトするということです。
      まずCCは、いわゆる「消費者」として説明されることをあまり気持ちよく思いません。シンプルで自発的で質素な生活を好み、大量の物を消費したり、贅沢な生活への関心が薄く、それらにお金を使いません。
      CCが考える消費とは、ささやかながら大切な暮らしを高めるもので、思慮深い社会のリーダーとして、または注意深い消費者として、どのように消費をし、どのような暮らしを営むのかを真剣に考えて選択しています。
      以下のリストは、真のホリスティックなCCの消費やライフスタイルの例です。

      • ・本や雑誌をよく買う。あるいは、ラジオをよく聴き、ニュースやクラシック音楽番組を好む。他のグループよりテレビを見ない。
      • ・アートや文化を享受し、これらの活動にも参加する。または、よく文章を書いたり、クリエイティブな人との集まりやワークショップに参加する。
      • ・物を買うとき、雑誌やネットでの紹介記事や、パッケージ製品説明をよく読み、また、製品の全体のプロセスを見る。その製品がどこから来て、どのように作られ、誰が作ったのかを知りたいと思う。
      • ・プラスチック製品、偽造品や模造品、安い使い捨ての物、あるいは最新の流行の物を拒否する。マーケットに真の基準をもたらし、消費者をリードしている。伝統的風習の物を買うときは、伝統への忠実さを求める。
      • ・衝動買いはせず、ラベルを読み、じっくり考えて購入する。物より、ワークショップの参加や、精神性や個人の成長を高める集まりやイベント、体験的な休暇など、経験にお金をかける。また、それらに対してスタイルや快適さを求めるのではなく、生態系や環境に配慮することを優先する。
      • ・電気製品、車、電子機器などの耐久消費財は、カスタマーレビュー等を読んで購入する。無駄になるような物を購入しない。
      • ・最新のコンピュータや家電をむやみ買わない。インターネットや科学技術のイノベーションより、文化的イノベーションをリードする。食やワインなどの知識集約的な商品をいち早く受容し、オピニオンリーダーになる傾向がある。
      • ・食べ物や食について話すことが好きで、食通が多い。友達と料理をしたり、外食もよくする。新しい種類の食べ物を試すことも好きだ。自然食や健康食品をよく試す。
      • ・CCにとって家は重要であるが、ほとんどのCCは新築の家を買わず、中古の家を自分たちの好みに改造する。家を「巣」のように考えており、家で仕事をしたいと考える人が多い。また、木のない郊外にある住宅団地から離れて暮らしたいと思う。

      • ワールドシフトの鍵は、カルチュラル・クリエイティヴズの意識


        もし、カルチュラル・クリエイティヴズの人が集まる町があったら、あなたは、そこに住んでみたくありませんか?
        真面目に環境や地球の展望に目を向け、女性や社会的弱者の視点が重視され、スピリチュアルで心理的な発展が約束された、ホリスティックな社会やライフスタイルを持つ、今までの豊かさの基準と異なった新しい価値観がつくる文化の社会。
        たった一人の生活でも、世界のシフトを進めているか、もしくは妨げているかに影響を与えています。まずは、あなた個人が、世界に与えている影響に気づき、シフトを進めたいなら、自覚を持って責任あるライフスタイや消費行動を変えることが不可欠です。
        「意識を変えること。それは、そもそも不可能なことではありません。ただ、気づけばいい。あなたや私、地球上に住む責任あるすべての人々が、意図的に行動を変えればいいのです。」とラズロ博士も『WorldShift』ハンドブックの中で言っています。ワールドシフトの鍵は、CCの行動と意識なのです。

        カルチュラル・クリエティヴズをムーブメントに


        『The Cultural Creatives』が出版された2000年から現在まで、CCは世界中でずっと増え続けています。また、「カルチュラル・クリエティヴズ」とインターネットでキーワード検索すれば、日本語でもCCについての投稿記事がたくさん検索され、すでにいろいろなところで紹介されています。
        ワールドシフト・ネット・ワークジャパンでも、「カルチュラル・クリエティヴズ」をワールドシフトの大事なキーワードの一つとしてとらえ、それを広げるべく、2010年の第1回ワールドシフト・フォーラムのアフターパーティとして、「カルチュラル・クリエティヴズの集い(呼称「カルクリ」)」を開催しました。CCの価値を持つ人々が集まり、交流することを目的とし、その後も2回のイベントを開催しました。
        CCは、あらゆる社会的、文化的なムーブメントを総括しています。エネルギーや環境のムーブメント、女性運動、平和運動、最近の新しい動きでは、オーガニックや自然食のムーブメント、東洋的な健康法、セラピー、瞑想などへの関心の高まり、ソーシャルビジネスやクリエティブな学びの場の盛り上がりなど、これらはすべての新しい価値観のムーブメントです。
        これからは、これらが繋がり合うことが多くのクリエティブで、イノベーティブな動きを早め、ワールドシフトをさらに前進させます。お互い語り合い、多様性を認め合い、深く理解し合うことは、個人の意識と世界の意識の繋がりに気づきを与えてくれるでしょう。そして、それが一体となる時、ワールドシフトを実現することができるのです。そのためにも、CCのムーヴメントを盛り上げることが、現在私たちに問われている世界への考え方と行動の大切な指針ではないでしょうか。


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